土曜日, 11月 19, 2011

ヤリビ新聞「DROP ME!」展取材

DROP ME !

多摩美術大学美術学部芸術学科展覧会設計ゼミ企画展覧会 開催期間:2011.11.17(Thu) - 11.23(Wed) 開場時間:15:00 - 21:00(Weekends & Holidays 13:00 - 21:00) 会場:nitehi works 入場料:無料

「あなた知ってる~♪港横浜~♪」今は亡き青江三奈の甘く気怠げな歌声が漂う伊勢佐木町モール。誰もが一度は耳にしたことがあるこのセクシーブルースは、モールの中心部にある、「伊勢佐木町ブルース歌碑」で聴くことができる。モールを少し北に外れた所に、若葉町があり、現在CPUE(芸術学科展覧会設計ゼミ,長谷川裕子監修)による「DROP ME!」展が行われている。会場「似て非works」は、元銀行をリノベーションしたもので、吹き抜け構造の3階建てはキュレイションの新しい可能性を感じさせる。最寄り駅は日ノ出町と黄金町で、知る人ぞ知る「赤線地帯」の近くに会場は位置する。1956年の売春防止法を境に一時息をひそめたかと思いきや、まだまだ周囲を見回せば、「ピンクライオン」や「洗体」という字が目にとまり売春街の残り香を感じさせる。

会場に一歩足を踏み入れると、そこには色彩があふれている。細長い長方形にカットされた色とりどりの色画用紙は繋がり合い、天井から垂直に垂れ下がり、天井・壁・地面へと生い茂る。中島崇による「the Beautiful,the Ugly」だ。紙という2次元の素材が3次元に起こされ、会場を浸食する。階段を上って2階部分には、山本聖子によるガラスの立体作品がある。ガラスの内部には若葉町界隈の不動産の住宅広告「間取り」がちりばめてある。人々の生活や記憶の居場所が、彼女の手よって再構築される。
踊り場を通ると、岩崎岳留が滞在制作を行っている。岩崎氏は会期中の7日間会場に滞在し、鑑賞者との対話により制作を進める。3階に上がり、金庫の扉をあけると、光線が交錯する中にけたたましい笑い声が鳴り響く。SONTONの「若葉町でんぐ」だ。巨大天狗が横浜ベイスターズの帽子を被り、突き出た鼻が回転する。そのエネルギッシュな空間は目がチカチカするため長時間はいることは難しい。
その隣には岩井優の映像作品がある。岩井氏は「ダンシング・クレンジング」をテーマに作品をつくっている。今回は会場の若葉町を舞台に、100人でダンスをしながら掃除を行った。その映像を若葉色の空間に閉じ込めた。緑色の空間に暫く居て、白熱灯の電球の空間に戻ってくると、辺り一面がピンク色に染まる。会場行き道にあったピンクなお店を連想してしまったのは私だけだろうか。また、会場である若葉町周辺にはに松延総司の「私の石」というセメントで作られた石3000個が、本展の学生キュレーターたちによって設置された。

若葉町というフィールドに、どっぷり浸かった「DROP ME!」展。その背後には、町に入り込んでいくキュレーターの卵たちの姿があった。芸術学科展覧会設計ゼミでは、学生たちがプロのキュレイターの指導を受け、現代美術の展覧会を実践を通してゼロから作り上げる。展覧会の大きな特徴として、開催地を毎年変えることが挙げられる。なぜ場所を変えるのか、その理由は「地域に歩み寄るため」の一言につきる。
ゼミ長、矢彦沢和音氏は、通算50回ほど若葉町に足を運んだという。若葉町の歴史は古く、数多く立ち並ぶ飲食店の多くは昔ながらの老舗店だ。下町特有の閉鎖的な雰囲気があるこの町にどのように入り込んで行ったのか、矢彦沢氏にきくと「メシを食うこと。」だという。展覧会会場の周りの老舗店で、メシを食う。そこで店主に話しかけ、若葉町の歴史をきいたり、地域のお祭りがあるときけば、半纏を羽織り神輿を担ぎに行く。
町が持つ土着のテクストをキュレイターが交流を通じ紐解き、そこで抽出されたものを作家のフィールドに投げかけていく。銀座のギャラリーでは生まれない展覧会が、このことにより実現する。会場周辺には、展覧会のポスターと共に先述した松延総司の「私の石」のキャプションポスターが町内のあちらこちらの店先に設置されている。若葉町と体当たりで築いてきた関係が、この町中のキャプションをつくったといえるだろう。


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